韓国の混乱は日本にどのような影響が?大統領の責任は?今後の見通しは?
韓国のキム・ヨンヒョン(金龍顕)国防相は「非常戒厳」に関連してコメントを発表し「国民に混乱を与え、心配をかけたことに、国防相として責任を痛感し、申し訳なく思う。すべての事態の責任をとって、大統領に辞意を表明した」と明らかにしました。
また「非常戒厳に関連して任務を遂行したすべての将兵は、私の指示に従ったものであり、すべての責任は私にある」としています。
韓国のユン大統領は、3日夜、緊急の談話を発表し来年の予算案に合意しない野党側の対応などを理由に「非常戒厳」を宣言し、戒厳司令部が国会や地方議会での一切の政治活動を禁じることやすべてのメディアが統制を受けるなどとする「布告令」を発表しました。韓国の国会は、4日未明に本会議を開き、非常戒厳の解除を要求する決議案を全会一致で可決すると、午前5時ごろ閣議が開かれて、非常戒厳は解除されました。
こうした中、韓国大統領府は首席秘書官などの高官らが一斉に辞意を表明したと明らかにし、現地メディアは、非常戒厳をめぐる一連の動きの影響だと伝えています。
戒厳司令官の陸軍大将名で出された「布告令」は「韓国の内部に暗躍している反国家勢力による体制転覆の脅威から、自由民主主義や国民の安全を守るため」として3日午後11時をもって韓国全域に6つの事項を布告するとしています。
1つめとして「国会と地方議会、政党の活動と政治的結社、集会、デモなどの一切の政治活動を禁じる」としています。
2つめに「自由民主主義体制を否定し転覆を企てる一切の行為やフェイクニュース世論の操作、虚偽の扇動を禁じる」。
3つめとして「すべての言論と出版は戒厳司令部の統制を受ける」としています。
4つめとして「社会の混乱を助長するストライキやサボタージュ、集会行為を禁じる」。
5つめには「ストライキ中だったり医療現場を離脱したりしたすべての医療関係者は、48時間以内に本業に復帰して忠実に勤務し、違反した時は戒厳法によって処罰する」としています。
最後に6つめとして「反国家勢力など体制転覆勢力を除く善良な一般国民は、日常生活での不便を最小化できるよう措置する」としています。
また「違反者に対しては、戒厳司令官の特別措置権によって令状なしに逮捕、拘禁、押収捜索ができ、戒厳法の罰則によって処罰する」としています。
一方、最大野党「共に民主党」は決議文を発表し、「ユン大統領の非常戒厳宣言は明白な憲法違反だ。これは内乱行為であり、完全に弾劾事由だ」と非難し、ユン大統領に直ちに辞任するように要求しました。
最大野党「共に民主党」など野党6党は4日午後、ユン大統領の弾劾を求める議案を国会に提出しました。議案では、非常戒厳が必要な状況ではないにもかかわらず、宣言が出されたことは明白だとした上で「憲法に違反した戒厳を宣言した。国民に対する裏切り行為だ」などとしています。弾劾を求める議案は、5日未明の本会議で報告されたあと、24時間以降、72時間以内に採決が行われ、国会議員の3分の2以上が賛成すれば、可決されて、大統領は職務を一時的に停止されます。韓国の通信社、連合ニュースは6日か7日に採決が行われると伝えていて、議案が可決された場合、今度は憲法裁判所が180日以内に弾劾が妥当かどうかを判断することになります。ただ、議案を提出した野党側だけでは、可決に必要な数に届いていません。
与党「国民の力」からは突然の非常戒厳の宣言に批判の声もある中、弾劾の議案に賛成するのかどうか、与党議員の動向に注目が集まっています。
韓国の大統領が憲法や法律に違反した疑いがある場合、韓国の国会は、議員の過半数の賛成で弾劾を求める議案を発議することができます。弾劾の議案は、国会議長が本会議に報告した後、24時間から72時間の間に採決が行われ、国会議員の3分の2以上が賛成すれば、可決され、大統領は職務を一時的に停止されます。
その後、憲法裁判所が180日以内に弾劾が妥当かどうか、最終的な決定を言い渡すことになっていて、裁判官9人のうち6人以上が妥当と判断すれば、大統領は罷免され、60日以内に大統領選挙が行われることになります。
2004年には、当時のノ・ムヒョン(盧武鉉)大統領が、大統領選挙をめぐる側近らの不正資金事件への責任などを理由に、国会で弾劾を求める議案が可決され、職務を停止されました。
しかし、その後の総選挙では、弾劾への反発を追い風に与党が圧勝し、憲法裁判所は、「罷免する重大な職務上の違反には当たらない」として、弾劾要求を棄却し、ノ大統領は職務停止からおよそ2か月で大統領職に復帰しました。
2016年には、当時のパク・クネ(朴槿恵)大統領が、知人による大統領府高官の人事への介入や、知人が関与する財団の設立への大統領の支援などを理由に国会で弾劾を求める議案が可決され、職務を停止されました。この知人は娘を名門大学に不正に入学させ、単位を不正に取得させたとして、大学の業務を妨害した罪などに問われたことなどから、当時、ソウルでは、パク大統領の退陣を求める大規模な集会が相次ぎました。
翌年、憲法裁判所は8人の裁判官の全員一致で、弾劾を妥当とする決定を言い渡し、パク大統領は韓国の大統領として初めて、罷免されました。
非常戒厳が宣言されたあと国会議事堂の周辺には多くの人が集まり、「大統領は辞めろ」などとシュプレヒコールをあげ、閉じられた門の前で警察ともみ合いになる場面もありました。また、上空では一時、軍のものとみられる複数のヘリコプターが飛ぶ様子が見られました。一方で、国会から少し離れた場所ではふだんと大きく変わった様子は見られず、人々や車が行き来していました。ただ、韓国の通信社、連合ニュースは非常戒厳の宣言について「偽のニュースではないのか」とか「何が起こるかわからない」などと困惑する市民の声を伝えています。
また、連合ニュースによりますと4日も、通常どおり学校の授業が行われるということです。
国会議事堂の正門前には集まった市民がユン大統領の辞任を求めて抗議活動を行っていて、批判の声が強まっています。
非常戒厳の宣言から一夜明けてソウルの市民からは「軍事力で政治活動を統制しようとするなんてこんなことがありえるのか」とか、「大統領の弾劾も考えなければならない」と批判の声が相次ぎました。
石破総理大臣は参議院本会議で「安定で良好な日韓関係は地域の平和と安定のために極めて重要で、韓国国内の動きについては、特段の重大な関心を持って事態を注視している。在留邦人の安全確保について注意喚起を行うなど、対応をとっている。現時点で邦人被害の情報には接していないが、引き続き万全を期していかなければならない」と述べました。
また「日韓は国際社会のさまざまな課題にパートナーとして協力すべき重要な隣国で、日韓関係全体の取り組みについては、適切に判断をしていく」と述べました。
石破総理大臣は4日夜、総理大臣官邸で、岩屋外務大臣、中谷防衛大臣、林官房長官とおよそ30分間会談し、韓国を含めた北東アジア情勢をめぐって意見を交わしました。
このあと岩屋大臣は、記者団が「韓国の非常戒厳の話をしたのか」と質問したのに対し「中身は控えるが、そういうことも含めて情報交換を行った」と述べました。
アメリカのブリンケン国務長官は3日、声明を発表し、「アメリカはこの24時間、韓国の情勢を注視してきた。ユン大統領が非常戒厳の解除を表明したことを歓迎する」としています。
そして「われわれは政治的な意見の不一致は法の支配に従い、平和的に解決されることを期待する。韓国国民への支持とともに、民主主義と法の支配という共通の原則を基盤とする米韓同盟への支持を改めて確認する」と強調しました。